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期末テストが終わった日。 俺たちの夏が、始まった日。 『ロミオ、おおロミオ!!あなたはどうしてロミオなの? どうか、その名をお捨てになって。それが無理ならば、どうか私を愛すると誓って!』 「止めてください」 演出家の透き通った声で、ジュリエット役の動きが止まる。 「今の演技は、大島さんから出てきたセリフです。ジュリエットのセリフではない。 この指摘の意味が、大島さんにはわかりますか?」 ジュリエット役、大島祐美は一瞬目を見開いたが、悔しそうに唇を噛む。 「理解できるわけない…そんな遠回しな言い方」 大島のクルクルと巻かれた髪が、逆立ったように見えた。 しかし、演出家の彼女は表情を全く変えなかった。 「ああ…せっかくオブラートに包んで言って差し上げたのに、どうして理解なさらないのですか?」 「な、なんですって!?」 イラついた彼女は手をグーに握りしめ、ツカツカと演出家の方へ歩み寄った。 「だったら、あんたが見本を見せなさいよ! あんたが思う、ジュリエットを!!」 すると、彼女はぽかんとした表情を浮かべた。 「何をおっしゃるのですか?」 そして立ち上がり、少し高い背丈の大島を、純粋な目で見上げた。 「ジュリエットは、大島さん。あなたの役です。 あなた以外の誰かが演じたって、なんの意味もありません。誰かの演技を真似たって、意味はありません。 それに、私はあくまで演出家」 彼女は完璧な微笑みを浮かべた。 「清水鏡花なんかに演技をさせるなんて…邪道すぎますよ」 そう演出家の彼女…清水鏡花は言った。 この物語は、将来、名演出家になる清水鏡花が初めて演出をした、舞台の物語である。 しかし、少年少女の心は彼女のように演劇に酔っているわけではない。 だからこそ起こる、いがみ合いや、罵り合い。 だけど、きっと最後は幸せになるはずだ。 だって彼女は、 誰よりも努力をする、まっすぐな人間だからだ。 そして俺、松尾勝吾は何があっても彼女の味方だって決めているからだ。
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