0人が本棚に入れています
本棚に追加
しょうがなく髪をかきあげながら、俺は彼女に近づいた。
「鏡花。いつも言っているだろう?言葉にしないと伝わらないって」
「役作りをせずに演じる人に、何を言わなければならないのですか?」
「鏡花!!」
俺は怒った口調でいうと、彼女はあきれながらも口を開いた。
「願ってる感じがしないんです」
その澄んだ声に、誰もが耳を傾けた。
「解釈の仕方については人それぞれだと思いますが、ジュリエットは願っているのだと、私は感じました」
願っている…
こんなに短い文章で鏡花はそう感じたのか。
「ロミオに向かって、なぜ『名前を捨てろ、愛すると誓え』などと言っているのか?
時代背景で、男の人でしか出来ないことだったのかもしれない。
しかし、ジュリエットだって名を捨てることも、愛を誓うのもできるはずなんです。
なのに、どうしてくどい言い方をしているか?」
その質問に、誰も答え無かった。
誰もわからなかったのかもしれない。
でも、『誰にも答えさせない』と言わんばかりのオーラが彼女にはあった。
…まるで、たった一人にスポットライトが当てられた、劇のようだった。
「それは…信じているから。名を捨ててくれると。愛してくれると」
彼女の夢のように甘い声に、あちらこちらから心を打たれたようなため息が漏れる。
大島の負けだね。
呆然として動かない彼女を見て、俺はこっそり鼻で笑った。
最初のコメントを投稿しよう!