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しょうがなく髪をかきあげながら、俺は彼女に近づいた。 「鏡花。いつも言っているだろう?言葉にしないと伝わらないって」 「役作りをせずに演じる人に、何を言わなければならないのですか?」 「鏡花!!」 俺は怒った口調でいうと、彼女はあきれながらも口を開いた。 「願ってる感じがしないんです」 その澄んだ声に、誰もが耳を傾けた。 「解釈の仕方については人それぞれだと思いますが、ジュリエットは願っているのだと、私は感じました」 願っている… こんなに短い文章で鏡花はそう感じたのか。 「ロミオに向かって、なぜ『名前を捨てろ、愛すると誓え』などと言っているのか? 時代背景で、男の人でしか出来ないことだったのかもしれない。 しかし、ジュリエットだって名を捨てることも、愛を誓うのもできるはずなんです。 なのに、どうしてくどい言い方をしているか?」 その質問に、誰も答え無かった。 誰もわからなかったのかもしれない。 でも、『誰にも答えさせない』と言わんばかりのオーラが彼女にはあった。 …まるで、たった一人にスポットライトが当てられた、劇のようだった。 「それは…信じているから。名を捨ててくれると。愛してくれると」 彼女の夢のように甘い声に、あちらこちらから心を打たれたようなため息が漏れる。 大島の負けだね。 呆然として動かない彼女を見て、俺はこっそり鼻で笑った。
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