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おそるおそる訊いた私に、主人はあくまでも淡々とした答え。
「人を殺し、その魂を食う本でございます。その本はこれまで幾多の人間を葬り、そのページに記録してきました」
「記録……じゃあ、ここに書いてあるのは」
「その本によって死した者たちの名前でございます」
言われてみればというか、この赤い文字の字間などを見てみると、確かに名前のようなリズムで書かれている。
殴り書きのような字でほとんど読めなかったが、ダニエルやマイケルという名前、ページを捲っていくと日本人と思われる名前も見つけた。
「この本に殺された人はどうなる?」
「本に喰われ、肉体も魂も、ページに記録される名前だけを残して、この世から完全に消失します」
彼の言うことが本当なら、容易に完全犯罪が可能になる。
「これをで人を殺したら、何かあるのか? 一度しか使えないとか、自分も死ぬとか……」
思わず聞いていた。誰もその暗い欲望を否定することはできないはずだ。
「手入れさえ怠らなければ、どなたでも何度でもご利用頂けます」
「何度でも……」
誰かを強烈に恨んだことなどはない。そう思っていたが、いざ武器を手にしてみれば、
あのとき殺っておけばよかった、と思える顔が何人も浮かび上がってくる。
持っているだけでも、役に立つかもしれない。
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