0人が本棚に入れています
本棚に追加
「これはいくら?」
「税込み8200円」
8200円……。まるで私の財布の中身を知っているかのような価格だ。
本としては高いが、気にいらない奴を呪い殺す道具としては、怪しいぐらいにリーズナブル。
主人があくまでも淡々した話し方をするせいか、罪悪感を感じないのも、購入意欲を煽り立てた。
「お求めになりますか?」
8200円と殺人の間で揺れ動く。
どんな手段であれ殺人はダメだ。これを手にしたら使わずにはいられないだろう。私の中にある忌避と良心が待ったをかける。
ぱらぱらとページをめくる。心は決まっているのに、踏み出せない状況を誤魔化すために、私はさらに質問をした。
「使い方とかは、書いてないんですか? 呪いのかけ方とか……」
「呪術の類などは必要ありません。もっと簡単な方法です」
「もっと簡単……」
つまり、ページに名前を書くだけとか、そういう方法なら、顔も見られる心配なく、唯一の証拠はこの本だけになる。
財布を準備しかけた私に、主人は淡々と告げた。
「本で殴って殺すのです」
「……なるほど」
私は頷くと、そっと本を閉じ、血塗られた鉄の表紙を棚に戻した。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!