第111話  誰一人欠ける事なく

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「お父さん! 大丈夫なの?!」 「あぁ、シルヴィア……か」 どうやらオレの命は間に合ったらしい。 オレの右手はシルヴィアに、左手はミレイアに握られている。 後ろの方にはグレンも、リタも、エレナも、アシュリーもみんな揃っていた。 すすり泣く声、噛み殺したような嗚咽、鼻をすする音、どれもかしこも重苦しい空気を生み出している。 最後は笑って見送って欲しいんだがな、それは無理な相談か。 「こんな事って、こんな事ってないわよ……! 私はまだお父さんに何も返せてない! 喜びも、安心も、愛情も、たくさん、たくさん与えてくれたのに、私は何も返せてないのに!」 「……あぁ」 そんな事はない、お前が居てくれたおかげでどれ程幸せだったか。 どれだけの喜びを与えてくれたか、計り知れないんだぞ。 丁寧にじっくり説明してやりたいが、口もまともに開けない。 クソッ、それでも父親かよ。 聞きたい話はたくさんある。 伝えておきたい事はいくらでもある。 だが、オレに残された時間と体力は余りにも少なすぎた。     
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