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それでもこんな状況でも、妹のミレイアのことは片時も忘れていなかった。
僕は最後の望みとばかりに、意を決して尋ねた。
「あの、お姉さんは魔王様……なんですか?」
廃墟やこの世の果てのような場所で聞くならまだしも、こんな安らぎ空間で聞くのは流石に失礼だったかもしれない。
不躾な質問のせいか、声がひどく震えた。
僕の問いに、すぐに答えは返ってこなかった。
言葉の代わりに香り豊かで暖かい紅茶と、僕には手の届かない高そうなお菓子が並べられた。
もてなしの対応が済むと、彼女はようやく答えてくれた。
「主人はもうじき戻るでしょう。それまで少々お待ちくださいな。お代わりもありますからね」
否定しなかった……。
ということはやっぱりここには魔王様がいるのだろうか。
主人と発言したのだから、この女性は手下なんだろうか。
凶悪さの欠片もない、町でも評判の美人さんという方がしっくりくるようなこの人が。
そんなお姉さんと二人きりで向き合っていると、なぜか落ち着かなってしまう。
気が動転してせっかくのお茶の味もわからない。
それでも水分補給をと思いながら、乾いた喉を潤していた。
事態が動き出したのは、その紅茶を飲み干した頃だ。
入り口が随分と騒がしくなる。
金属が擦れる音、重量感のある足音、そして言い争う声。
さっきまでの静けさとは雲泥の差だ。
まず銀の甲冑に身を包んだ赤毛の女性が入り、その女性と口論をしながらローブを着た茶髪の女性が入り、
そして最後にふてぶてしく、不機嫌そうな若い男が入ってきた。
この中に魔王様が、居るんだろうか?
結論から言うと、この時の予想は的中していた。
不機嫌の塊のような男こそこの家の主であり、魔王の称号を持つもの。
彼を知る者は、こう呼ぶらしい。
豊穣の森の魔王、アルフレッドと。
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