5.アラーム

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思いもしなかった否定を返され、シュウは困惑した。 「違う、って……? だって、島雨さんのところにも、チケットといっしょに診断書、ちゃんと送られてきたんでしょう?」 「ああ」 「ですよね。だったら」 「でも、違う」 「……だから、違うって、何が」 「俺は」 島雨は、瞼を閉じた。 そして再び目を開けたとき、それまでぼんやりと宙を見ていた島雨の視線は、目の前にある小さなカメラのレンズに焦点を結んでいた。 「俺は――死にたくない」 絞り出されたその言葉を聞いて、シュウは目を見開いた。 同時に――やっとわかった。 (ああ――そうか。そうだったのか) 島雨さん。 この人はどうやら、「自分は自殺志願者ではない」という妄想に取り憑かれているらしい。 道理で、と思う。 どうしてそんなことになったのか知らないが、この人は、すでに正常な判断能力を失ってしまっているのだ。 そう考えれば、これまでのこの人の言動に、いろいろと不可解点が多いことにも納得がいく。 それにしても、国から〈自殺志願者〉と診断されたにもかかわらず、そのことを受け入れることができないなんて。 「自分は本当は死にたくなんかないんだ」などと思い込んでしまうなんて。 世の中にはそういう人もいるのか。 いくらかの憐れみを抱いて、シュウは島雨の横顔を見つめた。 『終点まで、残り一分……。終点まで、残り一分をお知らせいたします……。前方をご覧ください。高さ120mの崖が近づいてまいりました。一分後、この列車は崖下に転落いたします……』
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