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シュウは窓の外を振り向いた。
鉄格子に頭を押し付け、列車の進行方向を見る。
列車は緩やかな坂を登りながら、突き出た崖の先に向かって走っている。
山の麓に広がる街が、もう見え始めていた。
深夜ではあるが、街にはまだ思いのほか明かりが灯っている。
懐かしい遠い光。
あの光の下で、まだ起きている人もいるだろう。
明かりを消して、眠っている人もいるだろう。
いずれにしても、あそこには、明日の朝を迎えるたくさんの人たちがいる。
それを考えると、非現実感が胸の内に吹き込んだ。
何が、非現実的なのだろう。
明日の朝を迎えることのできる人たちが、この遊園地の外には、当たり前のように存在していることが、だろうか。
それとも――自分が、今ここでこうしていることが、だろうか。
隣の席で、一つ、溜め息の音がした。
一つ息を吐く間に、この列車はどのくらいの距離を進むのだろう。
どれだけ終点に近づくのだろう。
終点たどり着くまでに、自分たちは、あと何回呼吸ができるのか。
そんなことを考えながら、シュウは隣を見た。
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