5.アラーム

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「怖いね。……手でも握る?」 島雨は、振り向きもせずそう言って、シュウのほうへ片手を伸ばした。 子どもじゃあるまいし、と思う。 けれど、差し出されたその手に、シュウはなんとなく自分の手を重ねた。 島雨さん。 この人と話していると、腹が立ったり、面倒くさいと感じたりしたこともあったけど。 でも。この人のことは、なぜだか嫌いではない。 会えてよかった。 今このときに、いっしょに居られてよかった。 そんな気持ちが、自分でも探り当てられない、どこか遠く奥深くから湧いてきていた。 島雨の手が震えていることに、触れてみて、シュウは初めて気がついた。 『間もなく、終点。終点です……。列車は予定どおり、午前0時ちょうどに崖下へと転落いたします……』 列車のスピードが、再び上がる。 崖の先が迫る。 いつの間にか、車内のあちこちから、乗客のすすり泣く声、むせび泣く声が聞こえていた。 隣の席から、押し殺した嗚咽が響いた。 シュウは窓の外を見続けた。 今は、振り向いて顔を見てはいけないような気がした。 自分も泣いておいたほうがいいのかな、と思ったけれど、涙を流そうとしてみても、今からでは間に合いそうになかった。 『終点――……』 ノイズ混じりのアナウンスと同時に、車両が、大きな音を立てて激しく揺れた。 レールを外れた列車が、勢いよく空中に投げ出されたのがわかった。 体が座席から浮き上がる。 島雨が、繋いだ手を、痛いくらいに握り締めた。 鉄格子の向こうに、傾いた街の夜景が広がっていた。 この列車が、一瞬後には落下していくなんて、シュウはなんだかまだ信じられなかった。
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