2.自殺志願者専用遊園地

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『あとはですね。――そう! チケットについてです。アトラクションチケット。これがないと、もちろんアトラクションを利用できなくなってしまいますので、くれぐれも失くしたりしないよう、皆様お気をつけくださいね』 ガイドのその言葉で、手に掴んだままのチケットに意識が向く。 ずしりと重いチケット。 これを失くす心配なんて、まずないだろう。 この大きさと厚みなら、鞄の中に入れても、携帯と同じくらいにはすぐ見つかりそうだ。 『えー。皆様のお手元には、今、四枚つづりのアトラクションチケットがあるかと思われます。アトラクションをご利用の際に必要となるチケットの枚数は、各アトラクションによって異なりますが、もちろん、チケットを五枚以上必要とするアトラクションなんてものはありませんので、ご安心を。――ただし』 そこで、一呼吸、間を置いて。 客たちを端から端まで見渡したあと、ガイドは言った。 『万一、すべてのチケットを使い切ってしまったら――その場合は、この遊園地から退園していただくことになりますので、ご注意ください』 それを聞いて、客たちの間で小さなざわめきが起こる。 シュウも、家族のみんなと顔を見合わせ、首をかしげた。 どういうことだろう?  チケットを使い切ってしまったら、って。 パンフレットを見ると、一回の利用で四枚のチケットが必要になるアトラクションは、いくつかあるけれど。 ――でも。 手持ちのチケット四枚を、ぜんぶ使い切ろうが切るまいが、どれか一つでもこの遊園地のアトラクションを利用した時点で、もう「退園」も何もないのでは……? 客たちは、一様にガイドへ疑問の目を向ける。 しかし、ガイドはそれに応えることなく、『ご説明は、以上です』と話を終わらせた。 そして、右手に持った大きな鎌を振り上げて、こう結んだ。 『それでは皆様、【ぎんいろ三日月ランド】で、良いご自殺を!』
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