3.ど・れ・で・し・の・う・か・な

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「僕――観覧車にしようかな」 大きな三日月が飾られた観覧車を見上げて、シュウは言った。 園内のどこからでも見える大観覧車は、単に目に入る頻度が多いためか、遊園地の象徴ともいえる風景であるためか、数あるアトラクションの中でもひときわ印象深く、シュウの気持ちを惹きつけた。 パンフレットによると、アトラクションの正式名称は【三日月と霧の大観覧車】。 〈安楽度〉90% 〈幻想度〉50% 〈興奮度〉と〈遊楽度〉はパーセンテージなし。 致死時間は約5分。 必要なチケットは1枚。 ――となっている。 「あら、もう決めちゃうの」 「観覧車かー。〈興奮度〉も〈遊楽度〉もないし、つまんなそうじゃない?」 「まあ、いいじゃないか。シュウがそれでいいならさ」 ということで、四人が向かう最初のアトラクションは、シュウの選んだ観覧車となった。 「観覧車もよさそうだね。でも、私はもうちょっと考えてから決めようかな」 「私は、こういう大人しいのより、もっと派手なやつのほうがいいや」 「俺は、何か絶叫系にするつもりだから」 ほかの三人は、そんな感じでまだアトラクションを決めかねていたので、観覧車に乗るのはシュウ一人だ。 ただ、自身も〈安楽度〉の高いアトラクションを選ぶつもりだという母は、 「もしなんなら、私もいっしょに乗ろうか?」 と、搭乗口の前でシュウに言った。 「ううん、大丈夫。母さんも、気が済むまで選んでから決めなよ」 シュウはそう答えて、母に、そして父と妹に、手を振った。 「一応、観覧車が一周するまで、ここで待ってるからな」 「うん、ありがと。……それじゃ」 こんなふうに見送られるのを、シュウは少し照れくさく感じつつ、三人に背を向けた。
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