3.ど・れ・で・し・の・う・か・な

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観覧車に並んでいる人はいなかった。 この時間だと、どのアトラクションもまだ人が少ないのだろう。 待ち時間なく乗れるのはありがたい。 搭乗口にいる死神姿の係員に、チケットを渡す。 バチン、と音を立てて、四枚つづりのアトラクションチケットが一枚、切り離される。 残り三枚になったチケットを返され、一応、それを受け取る。 そうして、シュウは観覧車に乗った。 死神姿の係員が、外側からゴンドラの扉を閉め、鍵を掛けた。 シュウは、大きく息を吐いて、椅子に腰を下ろした。 ゴンドラはゆっくりと上昇していく。 地面が遠ざかる。 少しずつ。けれども刻一刻と、確実に。 下で待つ家族三人の姿も、だんだんと小さくなっていく。 シュウは深呼吸した。 いくら〈安楽度〉の高いアトラクションといえど、さすがに心臓がドキドキしてきた。 このアトラクション――【三日月と霧の大観覧車】は。 パンフレットに記載されていた概要を、シュウはぼんやり思い返す。 ……この観覧車のゴンドラは、半周して頂上に達すると、密閉されたゴンドラ内に致死性の毒を含んだ霧が噴出される仕掛けとなっています。毒の霧を吸い込んでも痛みや苦しみはありません。ゆっくりと眠るように意識を失い、観覧車が一周するまでに、確実に死に至ります。…… この大観覧車の前面には、観覧車の直径よりも一回り小さい三日月のオブジェが飾られている。 三日月の先端は観覧車のちょうど真上と真下にあり、三日月のない側が昇りの半周、三日月のある側が下りの半周となっている。
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