3.ど・れ・で・し・の・う・か・な

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ほどなくして、ゴンドラのどこかから、スプレーを噴射したときのような音がし始めた。 生ぬるい湿気が、密閉されたゴンドラの中に満ちていく。 シュウはついつい息を止めたが、もちろん長くはもたず、また細く息を吸って、そのあと反動でむしろ胸の奥深くまで、霧の混じった空気を吸い込んだ。においはなかった。 薄目を開けてみた。 ゴンドラの中は、なるほど霧で満たされていた。 が、その霧は、視界が利かなくなるほどのものではなく、想像していたよりも薄い。 天井にある監視カメラの形が見て取れる。 霧がこれ以上濃くなっていく気配もない。 白い霧。 もしかしたら、霧に色が付いていたりしないかな、とか思っていたけれど、そんなことはないのか。 赤い霧とか青い霧とかだったら、ただの白い霧より幻想的だろうに。 どうやらこのアトラクション、目を開けていても、さほど面白いことはないようだ。 窓に付着した霧で、外の景色も見えづらくなったし。 まだ眠気はなかったが、シュウは再び目を閉じた。
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