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周辺のアトラクションではなく、なぜかこちらをじっと見ている男が、一人いる。
見知らぬ男だった。
年齢は、少なくとも父よりは若そうだ。三十前後か、もう少し上か、くらいだろうか。
無表情とも薄い笑みともつかない顔をして、くたびれたコートのポケットに手を突っ込んで、立っている。
その男は、シュウと目が合っても、おかまいなしにこちらを見続けた。
(なんだろう? あの人。知り合い、じゃないよな? 僕に何か用なのか?)
嫌な気分になって、シュウは軽くその男を睨みつける。
それでも、男は目をそらさない。
(もしかして、僕が、観覧車で〈ハズレ〉を引いたから? それで、めずらしがってるんだろうか? でも、だからって、こんなふうにじろじろ見るなんて……失礼なやつ)
シュウは、仕方なく自分から目をそらした。
園内には、まだ一枚のチケットも使っていない客だって多いだろう。
そんな時間帯だから、〈ハズレ〉を引いた客だって、今の時点では確かにめずらしいかもしれない。
だけど、これからいくらだって見られるぞ。
観覧車やほかのアトラクションの確率は知らないが、ロシアンルーレット・ドリンクなんか、十三人飲んだら一人は死なない計算になるんだから――。
男から目をそらしたまま、シュウは心の中でそう呟いた。
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