3.ど・れ・で・し・の・う・か・な

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シュウたち一家が次に向かったのは、母お目当てのコーヒーカップだった。 アトラクションの正式名称は【まどろみティータイム】。 〈安楽度〉100%で、〈幻想度〉、〈興奮度〉、〈遊楽度〉はパーセンテージなし。 身も心も安らかな自殺、というコンセプトに振り切った、究極の安楽死アトラクションといったところか。 致死時間は約20分。必要なチケットは1枚。 シュウの乗った観覧車やロシアンルーレット・ドリンクもそうだったが、パンフレットのアトラクション一覧を見ても、どうやら〈安楽度〉が高めのアトラクションは、だいたいチケット一枚で利用できるようだ。 「うーん、カフェにいるみたいな香り」 母が、大きく空気を吸い込んでそう言った。 このアトラクションの周りは、紅茶とコーヒーの混じった良い香りで満たされている。 確かにカフェっぽい。 「このアトラクションはねえ、カップに乗ると、カップの底からあったかい毒液が湧き出してくるんだって。足先から少しずーつ毒液に浸っていって、最終的には、半身浴ができるくらいまでカップの中に液が溜まるらしいの」 事前にこのアトラクションをチェックしていた母が、そう説明する。 「毒液には睡眠導入作用もあって、あったかい毒液に浸かってるうちに、とろとろ眠たくなってくるんだって。それで、眠ってる間に皮膚から吸収された毒が回って、いっさい苦しい思いをせずに死ねるアトラクション――って、パンフレットに書いてあった。どう? 素敵でしょ?」 「ふーん」 同意を求める母に対し、おとなしいアトラクションにさして興味のない妹の反応は、いまいち薄い。
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