158人が本棚に入れています
本棚に追加
シュウたち一家が次に向かったのは、母お目当てのコーヒーカップだった。
アトラクションの正式名称は【まどろみティータイム】。
〈安楽度〉100%で、〈幻想度〉、〈興奮度〉、〈遊楽度〉はパーセンテージなし。
身も心も安らかな自殺、というコンセプトに振り切った、究極の安楽死アトラクションといったところか。
致死時間は約20分。必要なチケットは1枚。
シュウの乗った観覧車やロシアンルーレット・ドリンクもそうだったが、パンフレットのアトラクション一覧を見ても、どうやら〈安楽度〉が高めのアトラクションは、だいたいチケット一枚で利用できるようだ。
「うーん、カフェにいるみたいな香り」
母が、大きく空気を吸い込んでそう言った。
このアトラクションの周りは、紅茶とコーヒーの混じった良い香りで満たされている。
確かにカフェっぽい。
「このアトラクションはねえ、カップに乗ると、カップの底からあったかい毒液が湧き出してくるんだって。足先から少しずーつ毒液に浸っていって、最終的には、半身浴ができるくらいまでカップの中に液が溜まるらしいの」
事前にこのアトラクションをチェックしていた母が、そう説明する。
「毒液には睡眠導入作用もあって、あったかい毒液に浸かってるうちに、とろとろ眠たくなってくるんだって。それで、眠ってる間に皮膚から吸収された毒が回って、いっさい苦しい思いをせずに死ねるアトラクション――って、パンフレットに書いてあった。どう? 素敵でしょ?」
「ふーん」
同意を求める母に対し、おとなしいアトラクションにさして興味のない妹の反応は、いまいち薄い。
最初のコメントを投稿しよう!