3.ど・れ・で・し・の・う・か・な

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「この香りって、カップの中に湧き出てくる、その毒液の香りなの?」 「そうなの! そこがまた素敵でね」 と、妹の問いに、母ははしゃいだ声で答える。 「毒液のフレーバーは、紅茶とコーヒーから好きなほうを選べるんだって」 「へー。お母さんは、やっぱ紅茶? バリバリ紅茶党だもんね」 「もちろん! でねでね、フレーバーはその二種類だけってわけじゃないの。カップの中に付いてるボタンで、さらにフレーバーの種類を細かく選べるらしくて。だから、紅茶は紅茶でも、それが、ダージリン、アールグレイ、セイロン……って具合に細分化されてるわけ。しかも、茶葉の種類だけじゃなくて、キャラメルとか、生クリームとか、シナモンなんかのトッピングフレーバーもあって……!  それに、単に種類の豊富さだけじゃなくてね。下見でここを通ったときから思ってたんだけど、これ、フレーバーのクオリティがすごく高くて。私、感動しちゃった。なんでも、有名な高級紅茶メーカーがフレーバーの開発に関わってるんだって。道理でねって感じ」 「それって、お母さんがたまーに買って、大事に大事に飲んでた紅茶のメーカー?」 「そう、それ。年に一回、誕生日の日に、一缶だけね。診断書が届いた日には、まだけっこうそれが残ってたから、この一週間、毎日飲んで贅沢しちゃった」 母と妹がそんなことを話している間に、アトラクションは次の客を乗せる準備が整ったようだった。
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