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「新しい試みってのは、最初のうちは抵抗があるもんだよ、なんでもさ。俺や母さんだって、慣れるまでは違和感があったさ、そりゃあ」
「そうそう、私だってそれなりに不安だったし。けど、だからってデモまで起こして大騒ぎするのはねえ」
「へえー、反対運動とかあったんだ。あたしはさすがに覚えてないなあ、十年前じゃ」
日曜日の朝。
シュウたち家族は、予定どおり八時半に家を出て、車で遊園地とへ向かった。
その車内で交わされる会話は、やっぱり制度についてのこと。
それと、昼食のこととか、ガソリン残量のこととか、車窓から見える景色のこととか、途中でコンビニに寄るかどうかとか、そのほかいろいろだった。
「あの頃からすると、ほんと、世の中すっかり落ち着いて」
「うん、やっぱり、平和がいちばんだよな」
母と父がうなずき合う。
確かに、またあんな時代になったら嫌だもんなあ、とシュウは思った。
街中(まちなか)で連日激しいデモが繰り広げられるなんて、うるさいし、鬱陶しいし、気が休まらなくてうんざりする。
そういう運動が収まってよかった。
なんだかんだで、自殺者支援は必要な制度なのだし。
この国が、政治家の偉い人たちが、必要だと判断したのだから、必要なのだろう。
政治とか経済とか福祉とかの難しい話は、シュウにはよくわからない。
でも、頭が良くてなんでも知ってる人たちが、この国を担って、自分のような何も知らない市民の代わりに「正解」を導き出してくれるのだから、安心していられる。
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