158人が本棚に入れています
本棚に追加
島雨が言っているのは、本当のことなのだろうか?
信じられない。
だって、自殺志願者の早期発見は、国にとって絶対に必要で大切なことのはずなのに。
自殺志願者を放置していたら、国が大変なことになってしまうというのに。
(そうでなきゃ、一斉検査にしろ、自殺支援制度にしろ、国がそんな決まりを作るわけないじゃないか……)
どうも、島雨の話は疑わしい。
筋が通っていない。辻褄が合わない。
そうだ。
相手がおかしなことを言っているのだから、聞いてるこちらが混乱するのは当然だ。
それに気づいて、シュウは急にバカらしくなった。
島雨は、どうやら自殺支援制度に反対の立場のようだが、反対派の主張なんて、いつだってこんなふうに支離滅裂。まともに取り合う必要なんてないのである。
もしもこの場に父か母がいたら、「この手の人は相手にしないほうがいいよ」と言うだろう。妹でさえ、きっとそう言う。学校の先生も、大学の教授も、有名なタレントも、人気の漫画家も、きっとそう言う。
「……それじゃあ」
シュウは、内心を隠して愛想笑いを浮かべた。
「ほかの国では、自分が自殺志願者かどうかもわからない人が、たくさんいるってことですね」
とりあえず、ここは島雨に話を合わせてそう返す。
もちろん、「ほかの国はそんなことで大丈夫なんだろうか」「自分はちゃんと検査があるこの国に生まれてよかった」という思いを笑みに込めて。
すると。
島雨は、シュウを見つめたまま、かすかに眉根を寄せた。
その表情は、悲しそうにも、悔しそうにも見えた。
あるいは、咎めるようでもあったし――どこか、申し訳なさそうですらもあった。
つまりは、よくわからなかった。
それに、表情の変化はほんの一瞬のことで、次の瞬間には、島雨はもうもとの涼しげな顔に戻っていたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!