5.アラーム

13/25
前へ
/105ページ
次へ
島雨が言っているのは、本当のことなのだろうか? 信じられない。 だって、自殺志願者の早期発見は、国にとって絶対に必要で大切なことのはずなのに。 自殺志願者を放置していたら、国が大変なことになってしまうというのに。 (そうでなきゃ、一斉検査にしろ、自殺支援制度にしろ、国がそんな決まりを作るわけないじゃないか……) どうも、島雨の話は疑わしい。 筋が通っていない。辻褄が合わない。 そうだ。 相手がおかしなことを言っているのだから、聞いてるこちらが混乱するのは当然だ。 それに気づいて、シュウは急にバカらしくなった。 島雨は、どうやら自殺支援制度に反対の立場のようだが、反対派の主張なんて、いつだってこんなふうに支離滅裂。まともに取り合う必要なんてないのである。 もしもこの場に父か母がいたら、「この手の人は相手にしないほうがいいよ」と言うだろう。妹でさえ、きっとそう言う。学校の先生も、大学の教授も、有名なタレントも、人気の漫画家も、きっとそう言う。 「……それじゃあ」 シュウは、内心を隠して愛想笑いを浮かべた。 「ほかの国では、自分が自殺志願者かどうかもわからない人が、たくさんいるってことですね」 とりあえず、ここは島雨に話を合わせてそう返す。 もちろん、「ほかの国はそんなことで大丈夫なんだろうか」「自分はちゃんと検査があるこの国に生まれてよかった」という思いを笑みに込めて。 すると。 島雨は、シュウを見つめたまま、かすかに眉根を寄せた。 その表情は、悲しそうにも、悔しそうにも見えた。 あるいは、咎めるようでもあったし――どこか、申し訳なさそうですらもあった。 つまりは、よくわからなかった。 それに、表情の変化はほんの一瞬のことで、次の瞬間には、島雨はもうもとの涼しげな顔に戻っていたのだ。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

158人が本棚に入れています
本棚に追加