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慌てるなんて珍しいこともあるもんだなーと感心するよりも先、伯父さんの代わりに「ごめんなさい」と謝罪をすれば、二階くんはまた眉根を寄せる。「桃瀬が謝罪する必要はない」と冷たく吐き捨てながら。
「しかしですね、失言に変わりはないですし……。その、伯父さんよりはいいかなと、思いまして」
横目で窺う伯父さんは二階くんを睨んだまま、怒りを隠そうともしていない。このまま謝罪をさせたとしても、言い合いにしかならないだろう。
どうしたものかと二階くんに視線を戻せば、なにを思ったのか、腕を伸ばしてきた。殴られるのかと目を閉じたが、いっこうに痛みはやってこない。代わりに、伯父さんの「ああ?」という不機嫌な声と『誰か』の温もりを感じていた。強くなった匂いとともに。いや、『誰か』なんて考えなくても嫌でも解る。まさか、いま、オレは抱きしめられている……のか? いやいやまさかと、目を開けたのち、あり得ない行動に心臓が飛び出そうになってしまう。「おええっ!?」とわけの解らない言葉を発すれば、背中に回された腕の力が緩められた気がした。二階くんはオレを殺しにかかってきているのだろうか。この場所だからこそ。
「に、ににににっ、二階くん!?」
「――おい、てめぇ、あまねになにしてんだ!」
今度はオレの情けない声と伯父さんの怒声とが重なる。いまだに続く「にっ、にかにかにか」との言葉は、衝撃の大きさを表しているようだ。いやだって、二階くんに抱きしめられるなんて想像もしていないことなのだ。だからか、肝心要の『どうしたんですか?』は口から出てこなかった。しかし二階くんには言いたいことが解っているのか、小さく笑うような気配がする。きっと綺麗な顔をしているんだろう。
「桃瀬はあの無能と俺と、どちらを選ぶ?」
「うえええっ、な、なんですかそれ、どういう意味ですかぁ……?」
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