がんじがらめの恋をする。

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「言っておきますが、あなたにはなにも関係ありませんよ。これは私と桃瀬との話ですから」 「そうもいかない大事な話だろう。あまねに関わることなら、俺にも話を聞く権利はある」 「あまね、ではなく、弟に関する話だと言え。まあどのみち、みすみす弟を逃がしたボンクラに話を聞く権利はないけどな。聞く前に探し出せよ、無能」 「音信不通をどう探し出せと?」 「興信所も探偵もいくらでもある世の中だ。頭を使え、頭を。それともなにか、あなたのその頭にはなにも詰まっていない――とでも言うのか?」 「まっ、待ってくださいっ! 二階くんも伯父さんも! なんでそんなに喧嘩腰なんですか!?」  鼻で笑う二階くんに負けじと言い返す伯父さん。いますぐにでも殴り合いをしそうな雰囲気だが、なにがそうさせるんだ。とりあえず目の前の二階くんにしがみついたけれど、間違ってないよな……? 二階くんは伯父さんと違って背が高いし、体格もいいから腕力もそれなりにあるだろう。もしも殴り合いになってしまったなら、二階くんにしか勝ち目がないのは目に見えている。最終的に書類はくしゃくしゃになってしまったが、背に腹は変えられない。だからいま、抱きしめているのに恥ずかしがっている場合ではないのだ。たとえ、二階くんのいい匂いに頭がやられそうになっていたとしても。 「け、喧嘩はダメですよ……?」  現実を見よと強く言い聞かせつつも、二階くんを見上げたらば目を丸め、すぐさま顔を逸らした。どこか慌てながら。 「二階くん?」 「桃瀬……、さすがに俺であっても、このような場所で騒ぎを起こさないような礼節は持ち合わせている。……から、離せ」 「あ、はい」  どうかしたのかと二階くんを呼んだ先、返ってきた上擦る声に「すみません」と腕を緩めた。と同時に、伯父さんが「二階のボンボンに礼節もくそもあるか」と言っているが、聞いていないことにしよう。二階くんは聞こえているぞと言いたげに眉を顰めたが、それ以上はなにも言わない。伯父さんはああ言ってはいるけれど、二階くんはやはり二階家のひとりなのだ。幼いころより礼儀作法を教え込まれている――。それだけではなく、上に立つ人間に相応しくなるようなことを叩き込んでいるとも聞くな。つまり、二階くんは礼儀を重んじているはずだ。ここにいる誰よりも。
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