がんじがらめの恋をする。

14/72
前へ
/72ページ
次へ
「桃瀬が無能を選ぶと言うのなら、俺は使える権力を全力で使う。俺ならあの無能が勤める会社を潰すことも可能だからな」 「はいぃ? え……、いや、二階くんはなにを言っているんですか……?」 「大事にされていることは理解できるが、気に入らない。いいか、桃瀬。俺はな、ほしいものに手を出されるのが一番気に入らないんだよ」 「ほしいもの、ですか?」  だいぶ落ち着いてきた頭で答えていたが、二階くんの言葉にまた混乱に陥りそうだ。いったいなんなんだろうかと疑問が湧いた先、顎を取られて上向かせられた。どうも危なっかしい言葉とは裏腹に、柔らかく笑むなんて毒でしかない。ああ、やっぱり、二階くんは美しい。美しすぎる。ただ立っているだけだというのに――それでもきちんと背筋を伸ばした立派な姿である――あふれる強者の証が、オレのなかのオメガの血をざわつかせていく。 「解らないのなら考えろ、桃瀬」 「おい! 俺のときとは扱いがずいぶん違うじゃねえか!」 「桃瀬と無能との違いだ」  落ちかけた思考を戻すのは伯父さんの声だ。おそらく、伯父さんが謝らないのはここにあると思う。つまり、オメガたるオレがいるから、伯父さんは二階くんに歯向かっているわけだ。いや、歯向かうしかない。どうあっても、オメガはアルファに敵わないのだから。 「あの、えっと、その……、あのっ、ですね……」  なんて答えたらいいのか迷っている間に、目の前にある綺麗な顔が歪む。早く答えろと言いたげな「あまね」とオレの下の名前を呼ぶ声は、けれど、どこか熱を持っているような気がした。  誰が助けてくれと辺りを見渡そうにも、がっちりと掴まれていて無理だ。二階くんと一緒にいた女性ならと思っても、高い声は聞こえない。 「あの……、二階くん。千夏はどこですか?」 「妹なら、違う場所で説明を受けているところだろうな。そのために大槇(おおまき)を連れてきたんだ」 「よ、用意周到ですね」 「逃げ道を塞いでいるだけだ。今度は絶対に逃がさないようにな」
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

886人が本棚に入れています
本棚に追加