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ことの始まりは小学生になったばかりの息子の異変だった。
異変などといったら大袈裟かもしれない、それは初めはちょっとした違和感のようなものにすぎなかったから。彼は登校前、朝の支度でグズグズと泣くようになった。
「いつまで食べてるの?」
「時間割りは前の日にしなさいって言ったでしょう?」
「着替えるのに何分かかってるのよ!」
「歯磨きすんだら日焼け止め塗るのも忘れないのよ?」
息子のそばでは常に妻の金切り声が響いている。ヒステリックな母親だと言われればそれまでだが、すべて息子を想ってのことなのだ。
だから手伝うということはするまい、と心に課している。自立した子になってほしいと彼女なりに願っているのだ。
息子は妻に似て色白で、日に焼けるとすぐに肌が赤くなり炎症を起こすものだから日焼け止めは彼女の親心であろう。そう考えると、この金切り声は愛の咆哮と捉えてよい。
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