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「あれうちの先生ですよ!森先生。井上さんも会ったことあるよ」
聞けば、先ほどの青年は杉谷法律事務所の弁護士だという。歩が杉谷法律事務所を訪問した際も何度か挨拶を交わしたことがあったようで、芹澤はダンサーのユウがフジ空調の歩だとバレないように、慌てて森の視界を遮ってその場を離れたらしい。
芹澤にそう言われて歩は記憶をさかのぼった。杉谷法律事務所には数多くの弁護士が所属しており、すれ違った際には挨拶をするがいちいち顔まで記憶していない。
「あんなきれいな先生いらっしゃいましたっけ?」
「きれいかなぁ。まあお仲間なんで、それっぽい雰囲気はあるかもしれないけど」
「きれいでしたよ」
「……もしかして少し嫉妬した?」
芹澤がいたずらっぽく笑って歩の顔を覗き込む。
「嫉妬っていうか、芹澤さんをとられたと思って悲しくなりました。俺、今日ちょうど芹澤さんに告ろうと思ってたんで」
歩はステージ上で感じた自分の気持ちを正直に打ち明けた。もう二度と後悔はしないと決めてから迷うことは何もなかった。格好つける必要もないし、言わなくてもわかってくれと身勝手なことも思わない。自分から、ありったけの好意を伝えるべきだと感じていた。ことばはスルスルと出ていく。
「直球だなぁ」
芹澤が困ったように、でも嬉しそうに笑う。
「こんな格好で言うのもなんですけど……芹澤さん好きです。ちょっと前から好きになってました」
歩は腰にタオルを一枚巻き付けた状態で浅く湯を張ったバスタブに座らされていた。滝川に「ユウを頼みます」と託された芹澤は、歩を自宅に連れて帰り、シャンプーしたり身体を洗ったりと甲斐甲斐しく世話を焼いている。
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