第2章

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 三谷が手洗いにたつと、芹澤がほんの少し声をひそめて尋ねてきた。 「今日、この後お仕事は?」 「特に残っていません。今日は社には戻らない予定です」  何か急ぎの資料でも頼まれるのだろうか? 「いえ、こちらの仕事ではなくクラブのほうの」 「……は?」  芹澤がもう一段声をひそめた。 「クラブの。ダンサーのユウさんですよね?ポールダンサーの」 「……」  顔から血の気が引く、とはよく聞くが、全身から血の気が引いて、足から抜けて、血液がすべて地面吸い込まれてゆくようだった。指の一本も動かせそうにない。
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