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昨日の初顔合わせでは、若いのに課長職という貫禄のある姿を見せていた。それから歩の夜の仕事を知る要注意人物になり、突然暗がりで迫ってくる油断できない男になり、今はこうして歩の許しを乞うている。安心したのと同時に、次々と変わる怒涛の展開になんだか可笑しくなり、歩は砕けた口調で芹澤に話しかけた。
「いつもああやって誘ってるんですか? 芹澤さんかっこいいから断られたりしないんでしょう?」
芹澤は肯定も否定もせず真一文字に口を引き結んでいた。
「割り切った付き合いする人がいるのもわかっているんですけど、俺はだめです。できません。ポールダンスなんかやってるとよく勘違いいされるんですけど、すごく古臭いんです、俺」
「……」
芹澤が何か言いたげに口を開きかけたが、何も言わずに再び唇を閉じた。
「好きで始めたことですけど、ポールダンスもただの仕事です」
歩は芹澤を椅子に座るよう促し、自分も向かいの席に座った。
「ただ仕事しにクラブに行っているだけです。俺は超地味なポールダンサーです。あ、超地味なポールダンサー兼サラリーマンです」
馬鹿にするでもなく芹澤が小さく頷いた。
「昨日は舞い上がっていたんです。クラブで見た美人が目の前に現れて、一緒に酒まで飲めて。ここで別れたらもう二人で会う機会なんてないような気がして」
言い訳ですと芹澤が目を伏せた。意思の強そうな太い眉が困ったように下がり、その顔は少しかわいいなと思った。
「俺も初めてポールダンスの仕事がばれてテンパりました。もしバレたって何も恥ずかしいことはしていないと思ってたんだけど、実際はダメですね。頭が真っ白になっちゃって」
ビジネス敬語を取っ払い、お互いに自分の言葉で胸の内を明かした。ようやく歩は等身大の芹澤と向かい合えた気がした。
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