2人が本棚に入れています
本棚に追加
「余命が、あと一カ月だそうです」
声がふるえないように気をつけながら小さな声で伝えたが、思うようにはいかず自分でもわかるくらいに香織の声は、弱々しくふるえていた。
叔母が小さく息をのむ。そんな音が聞こえて失敗したな、と香織は眉を歪ませた。
「そう、なの……晃」
「なに」
抑揚のない声色で、今まで黙っていた晃が口を開いた。
香織は、自然と彼へ視線を向ける。不機嫌にもみえるようなその表情に、まぶたが微かに痙攣しているのがわかった。その表情は、彼が悲しいことがあった時にするものだということを香織は、よく知っていた。
「母さん、姉さんの顔を見に行ってくるから、それまで香織ちゃんの傍にいてあげて」
「……わかった」
「それじゃあ、香織ちゃん。おばさんは、姉さんのところに行ってくるから晃と一緒に待っててくれる? 今日は、おばさんの家に帰りましょう?」
「えっ、でもご迷惑じゃ……」
「迷惑なんてとんでもないわよ。姉さんの大切な一人娘だもの、私にとっても大切な娘みたいなものよ。遠慮なく頼ってちょうだい」
香織が小さく頷くのをみると、満足したというように叔母は笑った。
「じゃあ、晃。あとは、頼んだわよ」
「わかってる」
晃が、軽くため息をつきながら手を振ると叔母は、一度晃の背中を叩いてから病室の方へと歩いていった。
「……久しぶり」
「おう」
長い沈黙のあと、香織がそう声をかけると、どこか気まずげに返される。
晃は、落ち着かないのか、頭の後ろをむやみやたらに触りながらキョロキョロと辺りを見回す。
しばらくそんな行動をしていた晃が、とある方向を見てピタリ、と動きを止めた。右腕につけた時計を確認したあと、香織へと視線を向ける。
「時間かかるだろうから……とりあえず、そこのカフェテリアにでも入るか」
晃が、指さした方には、病院の案内板にカフェテリアの文字があった。
そういえば、朝からなにも食べていないことを思い出した香織のお腹が、空腹をうったえはじめる。
「……そうしよっか」
鳴ってしまったお腹の音を誤魔化すように笑顔でそう答えると、晃は安心したように口元をほころばせた。
最初のコメントを投稿しよう!