23人が本棚に入れています
本棚に追加
「…っ」
虚ろな目で見上げてくる駒姫を見て、一心は言葉が詰まる。
これ以上駒姫の体力を使わせるようなことをして、もし…もしものことがあったら…。
「…食糧を探してきます。
そろそろお腹が空いているでしょう?」
「私は、空いていないわ」
「しかし」
「ねえ、お願い。
私…あなたと重なっている時しか…自分の罪悪から逃れることができないの」
「…終わった後に、もっと大きな罪悪が襲ってくるのではないですか」
「どうしてそんなことを言うの?
私…あなたと触れ合っている時が、一番安心できるの。
私を愛してくれているあなたに抱き締められるのが、この上ない幸せなの」
「それを言うなら…義光様だって」
「お父様に抱き締められたことは一度もないわ」
駒姫の言葉に、一心は目を見開いた。
「もちろんお母様にも。
乳母はあるかもしれないわね。
でもーーー私の記憶に残っているのは、いつもどこか一線を引いて、武家の娘として私を扱うお父様の姿ばかり。
だから、私を愛してくれて、私が愛している相手で抱き締めてくれるのは…あなただけ」
駒姫がにっこりと微笑む。
その菩薩のような笑みは、美しさと品しか感じられず、みすぼらしく擦り切れた着物を召していることや、淫らな格好となっていることなど全て取り払われる程に輝いて見えた。
ーーーああ…。
「あなたは、どんなことがあっても、何をしていても、誇り高い姫ですね」
そう言って一心が骨だらけの身体を抱き締めると、駒姫は安心したように、そのまま眠りについてしまった。
駒姫が死んだことに気付いたのは、一心があまりの空腹から意識を取り戻した数日後のことだった。
最初のコメントを投稿しよう!