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「う…」
動きの鈍った胃袋から聞こえてくる悲痛な叫びに起こされ、一心は重いまぶたを持ち上げた。
すぐ隣には、裸のまま手を絡め合わせた駒姫の亡骸が眠っている。
「…風邪を引かれますよ」
一心が寝ぼけ眼で近くの布を取ろうと身体を起き上がらせた時ーーー
「伊賀から来た忍はここか?!」
無作法に小屋の戸が蹴やぶられる音が響く。
「政宗様、見つけました!」
「間違いありません、ここに姫を攫った忍ーーーあっ?!」
言葉を無くす男たちの声。
その背後から、聴いたことのある低い声が現れた。
「やはりここに…?
ーーーお駒?…お駒…っ?!」
低い声の男ーーー伊達政宗が、他の者たちの間を割って入り、こちらへずんずんと近づいてくる。
「うっ…」
そして、駒姫からほのかに香り始めていた腐臭に、政宗は両目をしぼめた。
そんな光景を呆気にとられ見ていた一心だったが、こちらを異様な目で見てくる政宗たちの表情を認識した瞬間、駒姫の死を悟った。
その後のことを、一心はよく覚えていなかった。
あまりの空腹に思考が止まり、泣き叫ぶ政宗の声や、自分を取り押さえる男たちの言動など、何も考えることができなかった。
懐に忍ばせていた防犯用のクナイを次々と没収され、姫を殺そうとしていたなどと叫ばれていることにも何も反論しないまま、一心は馬の背に結び付けられどこかへと運ばれて行ったーーー
次に目が覚めたとき、辺りからはすすり泣く声が聞こえて来た。
「お駒…っ、よくぞ…帰って…」
「申し訳ありません。俺が発見するのが後少し早ければーーー…っ」
「政宗、もうよい。…もう…よい」
義光様の声だ。
あまりの懐かしさに、一心は何も考えることなく身体を起こした。
起こした身体をそのまま声の方へ向けると、
その先にいる義光とはっきり視線が重なった。
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