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「愛していました」
平然と言葉にする一心に、政宗は呆れたような視線を向けた。
「この状況で死罪を免れようと、まだ嘘を重ねる気か?」
「…里の任務では、ここへ来てから四年のうちに駒姫を殺すはずでした。
ーーーもう、それから何年も月日が流れました。
俺はここで生きながらえたとしても、この生が続く限り、里に追われ、いつか断罪される命です。
今の言葉は…命乞いから口にしたものではありません」
一心は、ぎょっとしたようにこちらを見つめてくる政宗を無視し、義光と向き合った。
「そして俺は、あなたのことも尊敬していました。
一国の主として…そして駒姫の父として、毅然とした態度で誇り高く生きる様は、駒姫もよく受け継がれていると思いました。
それは偏に、駒姫が義光様を心から慕っていた証拠。
そして義光様が駒姫を愛していた証拠でしょう。
俺は…そんな二人の側で生きることが、どこか窮屈で、羨ましくもあり、そして心地良かった」
何も言わない義光の目を見つめたまま、一心は言葉を締めくくった。
しばらく部屋の中に沈黙が流れていた。
しかし、義光はひとつため息をつくと、きりりと佇まいを直した。
「…お駒の墓に、顔を出してはくれまいか」
ーーーそれからの義光の動向は、漏れ聞こえてくる街の噂でのみ耳にしていた。
義光の妻、駒姫の母親が駒姫の後を追うようにして間もなく亡くなったことや、
駒姫の兄と弟たちが討死、殺し合い、病死などで次々と命を絶ったこと。
そして、かつての仕え先である徳川家康が、秀吉の死後に急速に勢力を拡大して行っていることーーー
この世の理とは何だろう。
理不尽で、世知辛く、救いのない世界。
必死に気高く生きた父娘は、その生き様が報われることはあったのだろうか?
一方で、最上家からも伊賀からも命を狙われていたはずの自分は
なぜのうのうと、かつて駒姫と共に世話になった寺で暮らしているのだろうか。
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