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「なんてことだ」
僕は悲鳴をあげると開いていた本を卓袱台に叩きつけた。
四畳半ほどの小さな部屋だ。部屋の真ん中に卓袱台と手元を照らす灯りが一つ。カーテンを閉められた部屋は昼間だというのに薄暗い。
「どうして、どうしてなんだ!」
絶叫とともに自分の体をかき抱いた。全身の皮膚が泡立ち震えが止まらない。僕は過呼吸気味の息をどうにか整えると、卓袱台の上の本を手に取った。
「・・・」
部屋から出た僕に店の主人である老爺の視線が突き刺さる。僕は手にしていた本をそっと老爺の前に置いた。
「これが僕の運命なのですか」
僕の言葉に老爺は頭をぽりぽりとかいた。
ここは町の片隅にある小さな本屋。目の前の老爺が一人で営んでいる小さな店だ。しかし、この本屋には普通の本屋ではないもう一つの顔がある。
ここに来れば自分の運命を知ることが出来るというのである。
店の主人である老爺に頼めば自分の運命が書かれた本を見せてくれるというのである。
単なる噂。初めは僕もそう思っていた。しかし、多くの人が自分の運命に興味を持ちこの店を訪れているという。ひやかしや恐いものみたさというのもあるだろうが、実際運命を知ることで成功した人もいるという。
本当に運命を知ることが出来るのだろうか
僕の中に小さな疑問が芽生える。ただの噂、出鱈目であると判じることも出来る。だが、もし本当に知ることが出来るなら自分の人生を歩むうえで大きな利点となることも間違いない。
きっと占いか何かで読み手に良いように書いてあるのだろう。そんな軽い気持ちで噂の本屋を訪れたのだった。
そう、本屋を訪れて自分の運命について知るまでは・・・。
「そうだ。間違いない」
「そんな嘘だ」
僕は反射的に叫んでいた。
「そこに書かれていることは間違いなくお前さんの運命だ」
「だってこれはあなたが書い」
老爺は僕の言葉を遮るように本を奪い取った。すると本に書かれていた文字がひとりでに消えてただの白紙の本になってしまった。
「うそ」
僕は急いで老爺の隣に立つと本に顔を押し付けるようにして眺めた。さっきまで書いてあった文章が綺麗に消えてしまっている。
「この本は持った者の運命を写しだすものだ。持っている本人以外にはただの紙にしか見えない」
老爺の言葉が僕の頭を激しく揺さぶった。
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