運命の書

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僕は膝から崩れ落ちた。体の中身が全て抜け出てしまったように体に力がはいらない。 立つことも顔をあげることすら出来なかった。 「そんな、僕はどうしたら」 ちからない言葉が口からこぼれる。しかし、その問いに対する答えは返ってこない。 そっと目線をあげると老爺は自分の運命が書かれた書をパラパラと眺めていた。まるで僕のことなど空気のか何かのように視界にすらいれていない。 「ぐっ」 腹の底に怒りが沸いた。今すぐ目の前の老人を殴りつけたい衝動に駆られる。 『人の気持ちも考えずに本など見るな』 そう怒鳴りつけて襟首を掴み上げようとする。しかし、そんな気持ちもすぐに体から抜け落ちてしまった。自分の運命を鑑みればこんなことろで老人に八つ当たりをしたところで何が変わるものでもない。 全ては無駄だ 僕は胸の中でひとりごちると静かに立ち上がる。奇妙なことに諦めてしまえば全てがどうでもよく感じられた。 「ありがとうございました」 僕は小さくそうつぶやくと老爺に背を向けた。 家に帰ろう。 自分の運命を考えればこれから何をしても全て徒労に終わるのだろうが、とりあえずは周りに心配はかけないようにしようと思う。そう思って足を出そうとするが、意志に反して足は動いてくれなかった。地面に縫い止められたようにそこから動くことが出来ない。 それと同時に体の中を冷たいものが駆け抜ける。これからの自分の運命に対する恐怖・絶望といった気持ちが僕の体を包み込んだ。目の前が暗く閉ざされ足元から震えが駆け上がってくる。 「待ちなさい」 そんな時、ふと僕の背中に声がかけられた。振り向くと老爺が本を差し出していた。 「えっ」 僕は戸惑いを見せる。その本はさっきまで老爺が見ていた本。運命の書だ。見る者の運命をつぶさに写しだす本である。 「あの」 僕は疑問を口にするが老爺はじっと僕の目を見つめたまま無言で本を差し出した。 「はぁ」 僕は渋々本を受け取った。今更、自分の運命を見返したところで何が変わるわけでもない。老爺の意味不明な行動に困惑と怒りを覚えつつ僕の運命の書を開く。
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