運命の書

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「えっ」 ぱらぱらと運命の書を見返した僕は違和感を覚えた。初めに読んだ時よりわずかに中身が変化しているように感じたのだ。 「なんで」 僕は驚いて本を閉じると老爺を見つめた。老爺は僕の疑問に答えるでもなく変わらず僕を見つめている。 僕は改めて運命の書を開くと注意深く読み進めた。すると、また内容が変わっているのである。前回ともその前とも違う。大きな変化ではないが明らかに本の内容が変化していた。 「どういうことですか」 僕は思わず老爺に詰め寄った。 些細な変化だ。運命の本流からすればほんのさざ波程度の変化しかないように思える。しかし、それでも僕はこの変化が気になった 。 そこに何かがあると本能が告げている。 「落ち着きなさい」 老爺は興奮気味の僕を制すると運命の書を受け取った。その本を大事そうに脇に置く。 「この本に写し出されるものは間違いなく読んだものの運命だ。それは間違いないが運命を変えることが出来ないというわけではない」 老爺はそう言うと僕の顔を見つめた。 僕はそんな老爺の顔をじっと見返す。今までなら自分の運命に悲観して顔をあげることすら出来なかったが、今はそれよりも本の内容が変化した理由が知りたかった。 「いい顔だ。この本に書かれているのはあくまで現時点でのお前さんの運命だということだ」 老爺の言葉に僕は首を傾げる。 「運命は固定されたものではないということだ。この本はその一つを映しだしているにすぎない」 「えっ」 老爺の言葉に僕は驚きの声をあげる。 「この世というものは全てあらゆる事象のまじり合いだ。些細なきっかけでそのまじわりが変わることもある」 「そうなんですか」 「そうだ。お前さんは自分の運命の一端を知った。そのことによって運命が変わった。さらに知ることでまた運命が変わったんだ。運命というものはすでに固まった未来なんてものじゃない、これからの行動一つで如何様にも変化するものだ」 老爺の言葉に僕は再び崩れ落ちた。闇の奥から一筋の光が差した気分だった。
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