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「痛々しい姿だな」
46インチのテレビに映った骨と皮だけになったライオン。悲哀をそそる音楽と、女性アナウンサーの解説に思わずつぶやいた。
「そうね。信二(しんじ)さん」
テーブルをはさんで、妻の洋子(ようこ)が相づちを打つ。深夜11時。小学校3年の香織(かおり)と、幼稚園年長組の武夫(たけお)。そして俺の祖父健司(けんじ)が寝静まった時間が、俺と妻とが学生気分になれる貴重な時間だ。
痩せ細ったライオンとは対照的に、俺は歳相応に太った。洋子は二度の出産を経て、母親だけが持つ度胸と度量が身に着いたようだ。
『パパ』『ママ』から解放され、酒を飲みながら互いの名前を呼び合う。
「うちで飼っていた犬も、最期はそんなだったなぁ」
ウイスキーに氷を足しながら、洋子が溜息を漏らす。
「やっぱり、毛並とかが変わるのか?」
氷がカリン、と罅割れる音と同時に洋子がうなずいた。
「それもあるけど、歯が弱るのよ。歯が。どんどん抜け落ちて、最後は歯茎だけになって。猫まんまみたいなものしか食べられなくなるの」
そうか、と返答すると、陰鬱な雰囲気を察したらしい、「でも、変よね。猫まんまって。
犬まんまって言葉はあるのかしら?」
確かに聞いたことが無い。あるのかな? と二人で笑う。こんな明るい性格に惹かれたんだ、と大学時代を思い出す。
「つき合う前、信二さんに出会った時、次男かと思ったわ。まさか一人っ子だなんて考えもしなかった」
「健司じいちゃんが武士道精神というか、昔気質で。結核が死の病だった頃の人だから、わざと長男には見えない名前をつけたんだとか」
俺が昔、母親から聞いた話を説明する。俺の中では健司じいちゃんは理知的な人だと思うが、母親にはそうは映らなかったようだ。
「ふうん。確かに戦国大名とか、酷い幼名をつけられた人っているものね」
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