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番組が終わり、サバンナの雄大な背景と共にテロップが流れる。 「野生は厳しいよな。物が食えなくなったら終わりだもんな」  ウイスキーを一口啜り、つまみのナッツを頬張る。  ばきん!  体験したことのない衝撃と音が、口の中からこだました。 「ぷっ、何だ?」  噛みかけのナッツをティッシュに戻す。 「やだ、これ、歯じゃない!」  洋子が目を丸くした。子供達が起きないように、しっ、と唇に手をあてるポーズをすると、「ごめんなさい。びっくりしちゃったから」と小声で返事が返ってきた。  舌で口内をなめ回すと、ざらざらしたナッツのかけらの感触に混じって、左の奥歯に大穴が空いていることが発見された。 「やばいな、これ」  ティッシュの上を確かめると、半分になった奥歯が転がっていた。しげしげと眺めると、表面は黄色く変色し、所々黒ずんでいる。  とにかくナッツは飲み込んでしまおう。ウイスキーをあおった瞬間、脳天を突き抜ける痛みが走り、思わず悲鳴を上げそうになった。 「痛ってえ」  ズキンズキンと上顎を通じて痛みが尾を引く。 「大丈夫? あなたって、最近歯医者さんに行ったことあったっけ?」  最初の問いかけにはうなずき、次の問いは記憶に無い。残業と育児に追われ、まともに歯医者にかかった記憶が無い。 「有給も残っているし、明日すぐ歯医者に行くよ」 「そう。良かった。今晩はもう寝ましょうよ」  洋子が手際よく食器を洗う。 「すまんが、先に休ませてもらう」  洗面所の鏡に口の中を映す。光源が弱いせいで口の奥側が見えない。唇の端が切れるほど大口を開けてみると、奥歯が一つ欠けていた。ハブラシを軽く当てただけで痛みが増す。  仕事だって、まだ沢山あるのに。毒づきながら、うがいをした。  アスピリンを2錠飲み、まぁいいか、ともう1錠追加する。パソコンで近隣の歯医者を検索していると、錐で突くような痛みが幾分和らいだ。  薬が効いたようだ。俺は布団にもぐりこんだ。
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