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「すいません。歯が欠けまして。痛みが酷いもので」  朝一番に、部長に電話をかける。有給は『いつでもとれる』のがホントウだが、チームの和を乱さないために、事前申請するのがジョウシキだ。 「ふうん、パパ、今日休みなんだ」  香織が朝食の目玉焼きをつつきながら視線を向けた。目は妻に似た二重で、髪の毛は俺に似て柔らかい。ジーンズと青いワンピースが良く似合っている。  すっかりランドセル姿が板についた香織をダイニングで見送り、 「パパ、あそぼ」  とズボンを引っ張る武夫を「ごめんな。パパ、病気なんだよ」といなす。 「ほら、武ちゃん、幼稚園に遅れるわよ」  ママの声に、「はあーい」と返事をして部屋を駆け出していく。  朝っぱらから元気だなぁ、と制服に黄色い帽子をかぶった我が子を眺める。30過ぎた頃から、そんな元気は無くなってしまった。昔は徹夜で麻雀打って、大学の講義に出かけたものだったが。  パンを一齧りする。片側の歯だけで咀嚼するため、すこぶる噛み心地が悪い。  時計が9時を指したと同時に、俺は歯医者へと出かけた。
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