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「よろしくおねがいします」と形式的な挨拶をするや否や、「では、倒しますね」と視界がどんどん低くなる。座椅子がベッドに変形したのだ。 「歯が欠けたということでしたね?」  うなずいて、口を開ける。口の中に小さな鏡が入れられたようだが、ライトが眩しくて直視できない。 「あー、ここねぇ」  歯科医の無機質な声が耳に入る。 「風をかけます。ちょっとしみますよ」  シュッ! うっ、と痛みに呻きそうになった。いい大人が恥ずかしい。 「恐らく虫歯が原因で、もろくなっていた歯が固いものを噛んで割れたのでしょう。今日は痛みが無いように埋めますが、全体的に歯垢がありますし、どのくらい深い虫歯なのか分かりませんので、レントゲンを撮らせて下さい」  鉛のような防護服を着ることは微かな記憶として残っていたが、CTスキャンのようにぐるりと回るレントゲンは初めてだ。色々進歩するものだなぁ。  写真はすぐに出来上がり、作業台の上に置かれた。 「今回割れた所はここです。歯が半分無くなっているでしょう」  ずらりと並んだ歯。歯科医が指をさしてようやく理解した。確かに半分になっている。 「それから黒い所がここと、ここと、ここ」  目を凝らしてみるが、今一つ分からない。歯医者は毎日診ているから分かるのだろう。 「黒く写った所は、酸で溶かされた所。虫歯です」  三か所か。3回通えば何とかなりそうだ。
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