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「ただいま!」
玄関から明るい声が響いた。香織だ。
「じゃあん。テストで98点だった」
誇らしそうに答案を広げる。
「がんばったな。手洗いうがいをしておいで」
はーい。と声を上げ、洗面へ駆けてゆく。
ぱしゃぱしゃと洗面台を使う音を聞きながら、答案に目を通す。
二けた×二けたの筆算か。繰り上がりがしっかりできていることに一安心。
小学校の問題だ。難なく解ける内容だが、なにせ問題数が多い。こういったチャレンジ精神が無くなるのは、『老い』なのだろうか?
香織とおやつのプリンをつついていると、「ただいまぁっ!」と一際元気な声。武夫とママだな。
武夫がプリンを目ざとく見つけ、「ボクも食べるぅ!」と冷蔵庫に駆けてゆく。
「パパ」
妻が顔を曇らせてそばに座った。
「幼稚園の、集団歯科検診、あったでしょ」
確かそんな事もあったなと相づちを打つ。
「武ちゃん、虫歯があったの。これから歯医者に連れていこうと思って」
「そうか、試練だな」
武夫、洋子双方に。
「でね、私も親知らずが痛いって、前言ったでしょ」
「ああ、確か下の奥歯だったよな」
「うん。左右、両方。一緒に診てもらおうと思って」
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