プロローグ

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夜会巻きにした艶やかな髪。口元から零れる白い歯。品の良い黒いブラウス……どこを見ても完璧な女性アナウンサーが、画面に向かって(りん)と挨拶をする。 「こんばんは。朝倉紗季(あさくらさき)です」 日本で一・二を争うテレビ局『テレビNM』所属の彼女は、現在、業界№1の若手アナウンサーだ。視聴者にも評判が良く、美人なのに笑うと可愛い、と老若男女問わず人気がある。 「本日は、考古学者であり埋蔵金研究の第一人者でもある、一柳比呂(ひとやなぎひろ)教授にお出で頂きました。教授、よろしくお願いします」 「ああ、よろしく」 白髪の獅子(しし)と言われる一柳は、矍鑠(かくしゃく)とした様で返事をする。 「では、早速ですが戦国時代と言われる混乱の世に生きた豪族、戸川氏についてお訊ねします」 一柳の眉間に薄っすらと(しわ)が寄る。 彼にはその人物の意味するものが何か分かっているからだ。 「一族は山間(やまあい)にあった祈祷(きとう)の里で、畑を耕してひっそり暮らしていたと言われています」 カメラが朝倉をアップで捉える。と同時に彼女の頬にくっきりとしたエクボが浮かび上がる。 彼女は知っているのだ。そのエクボが、他人の目にいかに魅力的に映るかを。
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