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このキリリとした雰囲気、身も心も引き締まる。
やっぱり、私は道場に身を置くのが好きだと改めて悟る。
花咲館空手道場は、遡れば江戸時代後期この地で創始し、最高師範は代々、何故か女性が務めてきた。現最高師範は母の桜子さんだ。
「二人共、凄く上達したね!」
荒い息を整え、流れる汗をタオルで拭きながら、グラスに注がれた麦茶を一気に飲み干す。
「当り前じゃないか! あれから何か月経ったと思ってるんだ」
嘉月君が胸を張る。
二人が道場に通いだしたのは、お正月明けからだから……「もう丸っと八か月?」と首を傾げると、智也君が「そう」と頷いた。
高梨智也君……彼も明るくなったものだ。
最悪の出会いをした嘉月君との仲も修復できたみたいだし……。
じゃれ合う二人を見ているとほのぼのする。
小学一年生と中学三年生、年齢は違えど友情は成り立つものなんだと独り言ちる。
「どう、阿倍野寺の生活は?」
「もう最低!」
即答! なんだそりゃ?
「一緒にお勤めしろって朝五時半に起こされるわ! 庭掃除は僕の仕事だって任されるわ! 本当、最低!」
そう言いながらも智也君の顔は輝いている。
やっと安息の場所を見つけられたようだ。
「五時半! 俺、まだグッスリ寝てるぞ、そりゃあ、辛いな」
嘉月君が心底嫌そうな顔をする。
その顔があまりに可笑しかったので、智也君と一緒に笑い転げていると――。
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