プロローグ

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朝倉の狙いは戸川学だと。 彼女は眉唾物(まゆつばもの)の埋蔵金話など本当はどうでもいいのだ。 今、世間を騒がしている話題の埋蔵金話を失踪事件と結び付け、視聴率のアップを狙って、それを出世の足掛かりにするつもりなのだ。 この女狐と一柳は心の中で彼女を罵倒(ばとう)する。 「――生憎(あいにく)だが私は考古学者だ。刑事事件めいた謎は解けない。彼の件は警察や探偵を当たってくれたまえ」 嫌悪を(あら)わにする一柳に対して朝倉は素直に頷き『最後』の挨拶をする。 「教授、本日は貴重なご意見をありがとうございました」 朝倉の瞳に黒く妖しい影が現れ消える。 「また、お会いできれば、と思います」 そして、一柳だけに聞こえるように、「できれば、ですが」と小さく囁いた。 ゾッとする黒い感情が、言葉と共に一柳の中に流れ込んできた。その瞬間、彼の瞳が大きく見開かれた。 「きっ、君は……」 一柳(ひとやなぎ)が苦し気に胸を押えその場に崩れ落ちた。その姿をカメラが捉える。 一瞬(いっしゅん)の静寂の後、「ウワッ!」と驚きの声が上がり、続けて「キャーッ」と悲鳴が上がった。 騒然とするスタジオの中で、唯一人、朝倉だけは鎮静(ちんせい)な面持ちを保っていた。 「私、存じておりましたのよ。貴方の心臓が弱っているのを」 この時、もし一台でも朝倉の姿を捉えていたら、鬼気迫るような絶世の美女が撮れていただろう。 一柳の『最後』を恍惚(こうこつ)と見つめる朝倉の表情は、青い炎のように妖艶で、この世の者とは思えないほど美しかった。
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