01) 平和な日々

2/7
543人が本棚に入れています
本棚に追加
/342ページ
――それにしてもと、カウンター席にズラリと並んだメンバーをチラ見する。 右から質屋の(げん)さん、八百春のおかみさん澄子(すみこ)さん、華道の家元花王和香(かおうわか)さん、オカマバー『三匹の小悪魔』のリリィさん。 今日もやっぱり……濃い! 和香さんを除き、皆、花水木(はなみずき)商店街に店舗を構えるメモリーの常連さんだ。 そして、リリィさんから三つ置き、左端の席で新メニューのプレート作りに勤しみながら、彼らの話を盗み聞きするのは――。 この店『メモリー』唯一の従業員で、無事に正社員となった私、花咲香織(はなさきかおり)、二十二歳。 「――なぁ、昨日の『ゴールド 埋蔵金を探せ』見たか?」 玄さんの言葉に「もちろん!」と澄子さんが頷き、眉を(ひそ)めた。 「一柳教授、お気の毒だったわね。心臓が悪かったんですって?」 澄子さん、なぜ私を見る? それは私に答えろと言っているのですか? いくら教授が勤めていた大学の卒業生だとしても、プライベートまでは……「全く存じ上げません」と言い切る。 すると、「ったく、小娘ってば、使えないわね!」とリリィさんの嫌味が飛んでくる。 「商店街中、その噂で持ち切りっていうのに……放送中に亡くなったのよ!」 どうして私が叱られるのだろう? それは私のせいではない。 「――で、皆がねぇ」と人が変わったように、リリィさんがシナを作り、カウンター奥に視線をやる。 「埋蔵金の呪いだっていうのよぉ、本当だったら……イヤーン、マスター怖ーい」
/342ページ

最初のコメントを投稿しよう!