第1章

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文化祭の出し物といえばクラスだけではない。 部活の展示品もまた力が入る。 アニ研…アニメ研究部でも毎年出し物に頭を使う。 文化祭は文化部の舞台の花だ。 「今年は中の人やるぞ!」 今年の部長は型破りらしい。 普通はイラストや漫画の展示だけなのに、中の人とは思いきったことをするものだ。 「中の人だと? 正気か?」 「…冗談じゃないぞ! 俺は大変なのは嫌なんだ!」 さすがアニ研。 即座に部長の意図を理解してどよめいた。 中の人とはアニメの声優の配役のことだが、転じて音響だけのオリジナルアニメドラマを作るという意味だ。 アニ研は既存のアニメを愛でるだけではない…自分でアニメを作る猛者もたくさんいる。 とはいえ、生セルウン千枚とアニメ用の絵の具と背景用のイラストと撮影器材と音響器材をすべて部費で落とす酔狂な生徒会はあるまい。 だから、音とイメージイラストだけ作るのだ。 で、配役はここの部員全員…しかし華…つまりヒロインがいないから学校から誰か探してこいという無茶ぶり。 最悪だった…テイク数にもよるが、ヒロイン声の使える美少女を救急部活に抱き込んで男まみれの狭くて暗い場所に最低数日ぐらい囲わなければならない。 スタッフロールにも名前を出すだろう…文化祭が終わったら確実に誰かに暗殺されるよな。 そんな難題など、誰がしたがるのか? アニ研に絶望が走った。 「部長がやって下さいよ、そんなのは。」 部員はやる気がなかったが、中の人は大抵一人では出来ない。 プロならば、やろうと思ったら出来るかもしれないが…一人が複数の配役だなんて珍しくもな話だし。 「やかましい! お前らと違って俺は3年なんだよ!」 部長は激昂した。 「来年は無いんだからな。 惰性でイラスト描いて部費食い潰してないで、アニ研魂見せろやゴラア!」 生徒会の回し者かこいつは。 皆がそう思った。
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