第1章

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「我がアニ研の文化祭の企画です! 女子の皆さん、声だけですがアニメドラマの声優やりませんか~!」 「今なら、ヒロイン枠空いてます!」 次の日からアニ研部員らは、必死で朝と放課後に校門に張り込み…呼び掛けを始めた。 声優業が主題歌のボーカルやミュージックアルバムなどでアイドル化してきた昨今でも、さすがにアニ研そのものの地位向上には至らないらしい。 てか、いきなり悲劇のヒロイン役とかあまりやりたくないと思う。 「『私ね、鹿取君を待ってるから! ずっと…ずっと待ってる!』 あなたの声が我がアニ研部を彩ります!」 文化祭の最中、部長への告白ごっこをする自分の声がエンドレスでリピート再生されるとでも言えよ。 嫌だよ、そんな罰ゲーム。 誰かがそんなヤジを飛ばす。 てか、中の人やるなら声優の疑似体験イベントの方がよほど有意義だと思う。 いくつか台本用意して、男女で共同作業させるとか。 あとは、朗読とか…何で女の子を一人探すだけなんだよ。 アニ研名乗るのもおこがましい貧困な発想力の奴らが、事態を打開するのは不可能に近い。 生徒の誰しもが、彼らを避けて通っていく。 風紀委員の指導を受けなかったのは奇跡だろうか? そんな空気が数日続き…彼らも収録をせねばならない日付けを確保せねばならなくなると、さすがに追い詰められたが故の奇行に走り出す。 アニ研部は5日目の部室での集まりで、とうとう破綻したのだった。 「…おい、購買のおばちゃんはどうだ?」 声優業に年齢など不問だが、年齢も構わなくなった。 「駄目だ…断られたよ。」 当たり前である。 「家族とかいねぇのか?」 「親に借りを作ったら、何をさせられるか分からんぞ? やめとけ。」 仮にも家族なのにな。 どこの家庭でも、オカンパワーには敵わない。
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