願いごと

3/8
前へ
/18ページ
次へ
 ぼくは言われるがままに、その人の異国めいた金属の腕輪を擦った。  と、その人の瞳が猫のような目に変化して、耳の先がとんがっていく。その姿はまるで…… 「魔神……」 「ええそうよ。わたしはおとぎ話に出てくる魔神よ。さあ、願って」  願う? 何を? でも、何故、この人はぼくに願いを言わせるのだろう。 「魔神である私の願いは、私自身の魔法を使ってその願いを叶えることができないの。  だから、どうしても魔法を使わないと叶えられない願いがあるときは、同じような願いを持っている、心正しい人にその願いを口にしてもらうの」  魔法にも、いろいろ決まりがあるんだ。 「私達おとぎの世界より生れたものは、本は肉体であり故郷へとつながっているの。そんな本を、己の一時の欲を満たすために、不正に取り扱う者に鉄槌を下したいの」 「でも、おとぎ話のようにはしない?」  いくら嫌なやつだと思う相手でも、いきなり命を落とすようなことになるのは嫌だ。 「きついお灸を据える程度にしておくわ。ふふ、優しい子ね」  どんなお灸をすえるのか気になったけど、あいつが、もう、こんなことを人にさせなくなるのなら大歓迎だ。 「……わかった。じゃあ、ぼくはどう言えばいい?」  その人はにこりと笑い、エプロンのポケットからメモと筆記用具を取り出し書いた。ぼくはそのメモを見ながら、その願いを口にした。 「これでいい?」     
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加