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大学に入学してから一度も帰っていなかった地元に戻ってきて、そういえば自分の町はこんなものだったかとしみじみ思う。古い駅舎から大学のある三つ隣の町に向かったのがもう随分と昔のことのようだ。改札まで迎えに来てくれたレイラは、記憶よりも古臭い格好をしていた。
さえない灰色のドレスにクリーム色のフリル、髪型も適当にまとめただけだ。化粧気のない?は、しかしそれでも美しい陶器のように白く輝いていた。前は派手とは言わないまでも小綺麗にしていた。上質な布で作られたスカートを風にまとわせて草原を歩く姿を今でも思い出す。日焼けすると肌が痛いから、と言っていつもかぶっていたあの大きな帽子は一体どこにいったのだろうか。
「遠かったでしょう? ありがとう、助かったわ」
「いいえ。早く会いたかったのよ。家でじっとなんて待っていられないわ」
「でも家事もあるでしょう? 結構大変なんじゃあないの?」
「そんなことないわ。ただ家にいるだけよ。退屈で死んじゃいそう」
「そう、なの」
駅の前で待たせていた馬車に荷物を預け、先に乗り込ませる。馭者が私に手を差し伸べてきたけれど、それを無視した。別にこれくらい、自分一人で乗れる。その様子を見たレイラがクスクス笑っているのが見えて、右の頬にできる笑くぼは何も変わらないんだなとなぜか安心した。それに私は動きやすいパンツスーツなのだ。どうして助けがいると思ったのだろう。
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