森の餌食 ~毒虫に卵を産み付けられちゃいました~

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「ぁ……あ…ぁ………っ」 また一つ、産卵管から卵が出てきた。 その虫の身体の大きさに見合った立派な卵は、彼の直腸を押し拡げながらゆっくりと体内に侵入してくる。 「ぅ…ん……」 身体の奥がズンッと重くなった気がした。 一つ、また一つと送り込まれる度に、圧迫感が増してゆく。 やがて直腸だけでは収まり切らなくなった卵は、その先のS字結腸を目指した。 この頃ではもう、外から見てわかる程に彼のお腹は膨らんでいた。 「……ひっ!」 鈍い痛みと共に開かれた扉。 直腸に溜まっていた卵が一気に流れ込んだかと思うと、蜂は更なる数の卵を産み付ける。 「苦しいよ……もう…………」 次々と寄生させられていく卵に、彼の腹の皮はしくしくと痛みだした。 恐らく身体を支配する痺れが完全になくなると、もう一つ酷く痛むだろうことが容易に予想できた。 彼の悲鳴が聞こえたからか、蜂は産卵を停止した。 そして毒針が抜かれると、彼の尻穴は元の慎ましい窄まりへと戻った。 そこまで確認すると、蜂はまたもやどこかへと飛び去ってしまった。 大人しく閉ざされた襞が再び開くことはない。 しかし、彼のお腹は卵の形がくっきりと浮き出るように、ぼこぼこと膨らんでいた。 妊婦とも違う姿。 彼は自分が異形の者になってしまったように思えてしくしくとすすり泣いた。 淡い水色の瞳は今にも儚く消えてしまいそうだった。 出したい。 でも怖い。 それに腹筋に力が入らない。 未だぐったりと横たわっていると、お腹の中の異物がもぞもぞと動いた気がした。 気のせいかと思い軽く手の平で触れてみると、やはり動きが伝わってくる。 ――まさか! ついに孵化のときがやってきたのだ。 ――パリンッ、パリンッ 実際には聞こえるはずもない音が脳内に響く。 一つ、また一つと幼虫になったそれらは、温かく湿った腸管の中を這い回る。 ――怖い、怖い、怖い しかもいちどきに沢山の卵が孵ったそこは狭すぎて、幼虫たちは彼の体内で大暴れしていた。 外から見てもぼこぼこと激しく動いている。 ――痛い、痛い、痛い 額には脂汗が滲む。 そしてついに幼虫が皮膚を食い破って表に顔を覗かせた時、彼の意識は急速に遠退いていった。 その場には、まだ温かい彼の身体に群がり喰らい付く、少し成長した無数の幼虫が残されていた。
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