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「おお……フサリアだ! フサリアの誕生だ!」
生まれてきた赤子の背に、絵画の天使に描かれるような小さな小さな一対の翼があるのを見て、新しい民の誕生に立ち会っていた年老いた長は、歓喜してその赤子を天に向かって捧げ抱いた。
「シッ。長老様」
しかし、産婆は唇に人差し指を立て、その声を制する。長も慌てたように、声を潜めて赤子を胸に抱き締めた。
「すまん、そうであった……。この子は隠さんといかん。今頃、竜の元にも、羽毛を持つ者が生まれておる事じゃろう……」
その民は、永いこと竜と共に生き、ドラグーンとして国を守る任についてきた。
だが、今の国王は隣国に自ら侵攻する事にドラグーンを使い、国費の殆どをそれに費やして、民を飢えさせていた。
次第に不満が高まるのを感じ取った国王は、フサリアの誕生を恐れるようになる。
先代のフサリアがみまかってから、ちょうどニ百年。国王は民に、フサリアが生まれたら祝祭をあげる為、すぐに知らせるようにと触れを出していた。
だが人間以上に賢い竜の長は、国王がフサリアを赤子の内に亡き者にしようとしている事を人の長に告げ、フサリアを隠すようにと言い置いた。
そしてまさに今生まれたのが、件のフサリアの片割れなのだった。
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