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* * *
「ナージャ! ナーッジャ!」
十歳になったアレンは、少々声を荒らげて、頭上の大岩に乗って彼を見下ろしている一匹の竜に向かい、踵を上げ精一杯腕を伸ばしていた。
「ずるいぞ! 竜になって飛んだら、俺の手が届かないじゃないか!」
深いブラウンの髪に白いおもて、フサリアにしては線の細いアレンは、遊びたい盛りだった。
対して、ナージャは美しい黄金の羽毛を持つ翼と長い尾をひらひらさせながら、揶揄する。
「鬼ごっこのルールに、『飛んじゃ駄目』は入ってねぇだろ?」
くつくつと楽しげに笑う。アレンの機嫌は、それに反比例するばかりだ。
「でも、人の姿で始めただろ! ナージャは都合が悪くなると、すぐ竜になっちゃうんだから!」
アレンはむきになって、大岩を上り始める。ナージャはのんびりと、それを制した。
「あ~、分かったよ。危ないからやめとけ、アレン」
「嫌だっ! そこまで行く!」
同じ日に生まれ一緒に育ったにも関わらず、ナージャの方が成長が早い事を悔しがり、アレンはこういった場面では常にナージャと張り合った。
しかし、いつも。
「わっ」
ニメートルほど登った所で、アレンは足を踏み外す。
「おっと」
身を竦めて瞼を瞑っていたアレンがおそるおそる長い睫毛を上げると、十五~六歳ほどのブロンドの少年の顔が、優しくアレンを覗きこんでいるのだった。
人に化身したナージャが、受け止めたのだ。
「だから、危ないって言ったろ」
「う……」
いつもやり込められてしまうアレンは、悔しさと、何かもうひとつの正体不明の胸騒ぎに顔を火照らせて、急いでその逞しい腕の中から抜け出して地を踏んだ。
そして決まり悪さに、ナージャに八つ当たりする。ある意味、正論でもあったが。
「ナージャが竜になっちゃうのが悪いんだろ! 今度やったら、もうナージャとは遊ばないんだからな!」
「ああ、悪かった。もうやらねぇよ」
ナージャも立ち上がり、降参のポーズでおどけてみせる。
二人の身長差は、二十センチといった所か。
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