ポップコーンラブ

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 鍵を回し、ドアを開けると、閉め切ったままの暗い部屋が目に入る。その暗闇に身を滑り込ませ、振り返って光を背負う彼を見た。逆光で、彼がどんな表情をしているのか分からない。 「ごめん」  短く謝ると、彼の鼻先で静かにドアを閉める。部屋に差し込む光が半減し、彼の姿が消えて行くのを残念な気持ちで見送った。あれだけ拒絶したのだから、もう言い寄ってくれる訳がないのに、自分は何を期待しているのか。  だから再び聞こえた彼の声に、僕は安堵していた。嬉しくさえある自分に呆れてしまう。 「ナオ、別れた恋人に操を立てるなんて馬鹿げてる」 「そんなこと……。え? なんで僕の名前を?」  意識して尖らせた声が、動揺でひっくり返りそうになる。 「表札にあった漢字を書き留めて、旅先で出来た友人に読んでもらった。本棚に同じ本がいくつもあったからそれも調べた。あなたのペンネームだったんだな。翻訳されたものを読んだよ。感想は明日の朝、教えてあげる」  「興味ないね。聞く必要ない」  僕は俯き、視線を逸らす。顔とは反対に、ドアノブを握る手からは力が抜けていった。残された隙間はほんのわずかで、いま手を放したとしても、扉の右上に取りつけられたドアクローザーの力だけでおのずと閉まるはずだ。 「あなたは嘘つきだから」  詰る口調とは反対の、諭すような丸い声だった。  扉を閉め切ろうとしていた手が止まる。細い隙間に、彼の長く綺麗な指が一本差し込まれて、彼の身体の分だけ扉が開き、すぐに閉まった。    強張った指先をほぐすように、手を握っては開く。密かな僕の行為を見つけた彼は、包むように手を取って宥めてくれた。緊張のせいかどちらの手も冷えていて、僅かな体温で温め合う。  まだ陽は高い。カーテンの隙間から、秋の柔らいだ日差しが、白い線を引いたようにベッドの上を横断していく。  数センチの光の幅の間で、唇を重ねた。彼の横顔に日差しが当たると、出来た陰影がさらに迫力を彼に与える。  後ろに肘をついて身体を横たえると、彼が僕の足を跨ぐように覆い被さってくる。光のラインは彼の割れた腹筋を照らし、次にブラウンの茂みを照らした。その中で勃ち上がるものの太さと黒さが、キスで息を弾ませた僕の目に焼き付く。  僕の視線を感じた彼は、少し恥ずかしそうに頬を染める。照れ隠しと分かる仕草で、わざと腰を振ってそれを揺らした。 「もう欲しい?」
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