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001 出会い
町の者達は皆、オルシアの名前を呼ばなかった。
たいてい、おい、とか、小僧、といった質量のない呼びかけをした。町人皆の名前を、皆が知っているような、小さい町に彼は生まれた。とうぜん、オルシアの名前も知られていたが、彼の名前が実際発音されることは殆どなかった。オルシアは決して孤児というわけでもなく、むしろ立派な医師の父親を持っていた。彼の父親は腕利きの外科医として村を越えて尊重されていた。
しかし、その立派な父親も、町長も――そして彼にとってもっとも不幸なことに、町で唯一の魔術士も、オルシアの名前を呼ばなかった。魔術士はオルシアに「奇妙」な気配があると断言をした。それはオルシアが三つになるかならないか、というような頃のことだった。オルシアはその朝のことを覚えている。突然に魔術士がやってきて、オルシアを指差し、天啓を与えた。
――この子どもは呪われている!
それから暫くして、母親が去った。寂しかったが、どうしてか悲しくはなかった。小さな村のなかのこと、子供に呪いが発覚すれば、母親というのはそういう反応をするものだと、三歳のオルシアは不思議に理解が出来ていた。
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